茅葺にいきる

空がとても近く感じる。

「この仕事はなぁ、トンビの背中が拝めるんや」
麦わら帽子を被った先輩の職人が、茅を並べながら嬉しそうに教えてくれた。僕は担いでいた茅をドンッと降ろし、吹き出てくる汗を首にぶら下がった手拭いでぬぐった。
ピーヒョーロロロ…
夢中で仕事をしていたので気がつかなかった。トンビも空も自分の手が届きそうだった。
(…なんて気持ちのいい仕事だろう)
十数年前、京都府美山町の空の下、まだデッチだった僕は茅葺き屋根に、この仕事に惚れたのだった。
それから今日まで、屋根も人も様々な出会いがあった。
それは自信と誇りと愛と感謝に満ちていく日々、僕は益々茅葺きの仕事に惚れ込んでいく。

故郷に帰ってきた。

独立した僕の屋号は“いけがみ”この地で染織業を営んでいた、亡くなった祖父の屋号を頂くことにした。 美山の親方の元で仕事を始めた頃、盆や正月に帰ると「くずや葺きの仕事なんてやめれぇいや」と、家族の中で祖父が唯一僕の仕事に反対していた。その時は悔しかったし反発も覚えたが…
今になって思う、職人だった祖父は誰よりも僕の仕事を理解し、僕を愛してくれていたのだと。

茅葺、人生。
 
 

澄みきった青空の下、今日も屋根に登る。
 
空と屋根を結ぶ屋根鋏がキラリと輝く。

ツチを振るい屋根を叩き、茅にまみれ、汗を飛ばす。

日が沈めば仲間達と杯を交わし、黒い顔で泣いたり笑ったり。

僕がいきることは茅を葺くということ。まだまだこれから、始まったばかり。

 

 

茅葺いけがみ 
 

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